知恵の書

今週は第一朗読として「知恵の書」が読まれます。この書物は、その記述に時代、言語、教義の点から旧約聖書のうちで新約聖書と最も密接な関係にあるものと思われる。本書は、いわば旧約聖書の横断面であるだけでなく、新約聖書の導入口のような働きをしている。すなわち、ヘブライ思想によるユダヤ的道徳律と旧約聖書の教訓とが、最終的に洗練されてギリシア思想による新しい部類に入れられたものであるから、ユダヤ人に託された旧約聖書の教えと、使徒たちによって世界の果てまで伝えられるべき新約聖書の福音とをつなぐ輪の役割を演じている。」(フランシスコ会訳聖書の解説)
律法と預言者と知恵文学。

 本書の原語はギリシア語である。本書にはヘブライ的色彩が強く表れているが、同時にギリシア哲学に関するかなりの知識が見られる。
「著述の場所として考えられる最もふさわしい場所は、エジプトのアレクサンドリアである。(様々な文化が交流する都会。古代に最大の図書館があった町)そこは離散のユダヤ人たちの強力な団体があり、七十人聖書が訳された地でもある。著述の年代は紀元前二世紀における七十人訳の完成の後であることは確実である。また、著者の精通していたギリシア哲学思想はキリストと同時代のアレクサンドリアのユダヤ人哲学者フィロンに先んずるものがあること、またアレクサンドリアのユダヤ人の歴史と本書に現れたユダヤ人の境遇や生活状態との比較研究によって時代を絞って、本書は前88年から前30年までの間に書かれたということができよう。」

「本書は典型的な教訓書の部類に属し、道徳生活に関する考察や金言(きんげん)からなっている。しかし、10-12章と16-19章は、教訓書ではあるが、「ミドラシュ」(正確には「ミドラシュ・アガダ」)という特殊な文学的部類に属する。そもそも、聖書の部分的説明を行って人を教化する目的をもった記述形式を「ミドラシュ」というが、「ミドラシュ・アガダ」は聖書中の歴史的記事を扱うが、文字どおりの意味を超え、その中に反映している深遠な神の摂理を説明しようとする。この様式は、バビロン捕囚後、特に祝祭日に会堂における聖書の説教に採用され、民衆に親しまれるようになっていた。」

ラツィンガーによると、知恵文学は"The Path to a Universal Religion, after the Exile"である(J. Ratzinger, Truth and Tolerance, Ignatius, 2003, p. 149) 。

第二ヴァティカン公会議後に「諸宗教の対話」とか、「異文化の対話」ということが盛んに言われるようになったが、それはすでに聖書の中に行われていることだった。